'疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた' を読んだ

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SNS で誰かがシェアしていて興味を持ったのがきっかけで読んでみた。

うつ病やコロナが類似していてなんらかの脳の炎症、くらいの前提知識はあった。

疲労の科学的定義

一般的に使用される用語である「疲労」には、2つの意味が含まれています。疲れたという感覚である「疲労感」と、疲労感の原因となる「体の障害や機能低下」です。 — location: 106

すべての人や動物にまで共通する「疲労感という感覚」とは、いったい何なのでしょうか? その答えは、「休みたい」という気持ちです。 難しい言い方では「休養の願望」といいます。 — location: 220

仕事や運動などで発生し、1日休めば回復するような短期的な疲労を、生理的疲労といいます。 これに対し、何ヵ月も続き、少々休んだくらいでは回復しない疲労は、病的疲労と呼ばれ — location: 236

疲労感というのは「休みたい」という気持ち、疲労感を生じさせうる疲労には生理的と病的の二種類がある。

細胞レベルでの疲労メカニズム

疲労感……ISRによって産生された炎症性サイトカインが脳に伝わって生じる感覚 疲 労……ISRを引き起こすのリン酸化による細胞の停止や細胞死 疲労の原因はISRと呼ばれるストレス応答であり、それを引き起こすのがのリン酸化ということになるわけです。 — location: 380

生理的疲労のもとになっているのは、これまで述べてきたようにのリン酸化ですので、をリン酸化させないというのが最も根本的な方法です。 — location: 531

おかしなことをいうようですが、じつはリン酸化脱リン酸化酵素を誘導するのは、疲労なのです。 — location: 551

炎症性サイトカインが脳に伝わると疲労感が生じる。

疲労はISRというストレス応答の結果であり、それを引き起こすのはタンパク質のリン酸化

脳と疲労感の関係

生理的疲労では、「疲れた」という感覚、すなわち「疲労感」は、脳の中で生じます。体内で産生された「炎症性サイトカイン」という物質が脳に入って、脳に働きかけることで生じるのです — location: 253

生理的疲労と病的疲労の本質的な違いは、脳内炎症が起きているかどうかです。そして、その違いを生むのは、脳の抗炎症機構が正常に働いているかどうかです。 — location: 1868

①疲労感の原因は、脳が炎症性サイトカインにさらされることである(これは生理的疲労も病的疲労も同じ) ②脳が炎症性サイトカインにさらされる原因は、次のとおりである  生理的疲労……末梢組織で産生される炎症性サイトカイン  病的疲労……脳内の炎症 — location: 1636

生理的疲労では脳内炎症は起きていない(炎症性サイトカインが脳内に入っていない)

ウイルスと疲労・うつ病の意外な関係

うつ病と診断するために必須な症状は「抑うつ気分」または「喜びの消失」となっており、「疲労感」が消えてしまっているのです。 — location: 823

うつ病を引き起こす危険因子であると考えられる遺伝子が、HHV‐6が宿主の体内で潜伏感染しているときに産生されているのを発見することができました。この遺伝子をわれわれは、「SITH‐1」と名づけました。 — location: 830

SITH‐1がつくるタンパク質に反応して産生される抗体をうつ病患者が持っているかを調べたところ、約80%のうつ病患者が陽性でした。そして陽性の場合のうつ病になりやすさは、陰性の場合の12・2倍にものぼることがわかりました。 — location: 833

うつ病患者では、疲労が火種となり、SITH‐1がその消火を阻むことで脳内炎症が引き起こされる、という現象が生じていることが明らかになったのです。 — location: 1702

うつ病は30~50%という遺伝率で遺伝することがわかっています。 30~50%の遺伝率というと、高血圧の遺伝率とほぼ同じです。 — location: 961

歴史をひもとくと、遺伝だと思われていたものが感染症だとわかることのメリットはとても大きい — location: 1269

うつ病になりやすい性格として有名なものに「メランコリー親和型性格」と呼ばれるものがあります。その特徴としては、真面目、仕事熱心、秩序やルールに忠実、献身的、責任感が強い、頼まれると嫌とは言えない、といったものが挙げられます。 — location: 2006

うつ病の危険因子を SITH-1 と名付けていてすごいなと思った。

やはり遺伝的特性も小さくない割合がある。

抗酸化物質の落とし穴

エナジードリンクの疲労感減少効果がカフェインによるものだというのは、ちょっと考えれば間違いだということがわかります。 なぜなら、エナジードリンクに入っているカフェインの量はほとんどの場合、コーヒーに入っているカフェインの半分以下にすぎないにもかかわらず、エナジードリンクの疲労感減少効果は、コーヒーと比べると絶大だからです。 — location: 473

抗酸化剤によって、疲労感のもとになる肝臓で産生される炎症性サイトカインが減少するため、脳は「疲れていない」と解釈し、体を休ませるシグナルを出さないことです。このため、無理に体の組織を使って過剰なリン酸化を生じさせてしまい、組織の障害や、ひいては突然死を招いてしまう可能性があるのです。 — location: 493

一般的に「疲労に効く」といわれている食品はおしなべて、抗酸化作用を持つものばかりなのです。たとえば、ニンニク、鰻、焼き肉など、元気が出そうと思われているものは、たいてい抗酸化作用を持っています。だから、これまでの経験に頼って抗疲労食品を開発しようとすると、抗酸化作用を持つものばかりになってしまうのです。 — location: 523

この状態は、副腎皮質ホルモンとアドレナリンやノルアドレナリンによって「疲労感」が抑制されているだけなので、「疲労」、すなわちのリン酸化による細胞の障害は、どんどん蓄積されていきます。過労死、とくに心不全などの臓器障害で突然亡くなるタイプの過労死は、このような現象が原因と考えられます。 — location: 443

今までエナジードリンクの高揚はカフェインによるものだと勘違いしていた。 それは中に入っている抗酸化剤によるもので、疲労感のもとになる炎症性サイトカインを意図的に減少させている。 それによって脳が「疲れていない」と勘違いさせている、これによって危険シグナルに気づかず突然死などを招いて石舞っている。(あくまで疲労感を抑制しているだけなので、疲労は蓄積されている)

正しい疲労対策法

では、科学的に正しい疲労対策とは何でしょうか。

軽い運動をしたグループでは、疲労回復指数が上昇していました。これは、軽い運動によって適度な生理的疲労がもたらされたことにより、疲労回復力が増強されたためであると考えられます。つまり、軽い運動は疲労感を減少させるのではなく、疲労回復力を高めることで生理的疲労そのものを減少させるのです。 — location: 568

軽い運動による疲労回復が疲労回復力を向上させるという、疲労こそが正しい疲労対策というもので面白かった。

新型コロナとの関連

インフルエンザウイルスでは、直近の新型インフルエンザのパンデミックによる死者数は世界で約2万人と発表されているのに対し、新型コロナウイルスは、公表されているものだけでも世界で700万人を超えています。そのため世界中が、新型コロナウイルスに感染した脳の研究に真剣に取り組まざるをえなくなったのです。 — location: 1411

新型コロナウイルスはヒトの脳ではまったく増殖していない — location: 1414

一般的にウイルス感染の際に、脳の炎症が原因と考えられる強い頭痛などがある場合、脳内でウイルスが増殖していれば「脳炎」、ウイルスが増殖していなければ「脳症」と呼んで区別しています。なお「脳内炎症」という言葉には、脳炎も脳症も含まれます。 — location: 1402

今まで脳炎の研究は米国はじめとした価値観の違いなどで注目されていなかったのが、コロナをきっかけに注目された。

まとめ:疲労との上手な付き合い方

この本の結論を簡単に表現すると、「疲労とは脳の炎症である」ということになると思います。そして、脳の炎症がどのようなメカニズムで生じるのかについても、従来の常識をくつがえす結果が得られたことを説明しまし — location: 2165

病的な疲労やうつ病は脳の炎症である。 エナジードリンクはなるべく飲まない、適度な運動を心がける。


参考文献

近藤一博『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』ブルーバックス、2024年

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